番外編 メナヘム・プレスラー ピアノリサイタル レポート

2017年11月16日にサントリーホールで行なわれた

御年93歳のメナヘム・プレスラーのピアノリサイタルを

聴いてきました。

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プレスラーについて、インタビューはこちら。

音楽ジャーナリストの眼 - ヤマハ株式会社

「ベルリン・フィル・ラウンジ」第106号:メナヘム・プレスラー、音楽を語る(前半)|ローチケHMVニュース

演奏はこちら


Menahem Pressler - Chopin, Mazurka Op. 17 No. 4 

 

 
Menahem Pressler making his debut with the Berliner Philharmoniker

 

プレスラーの音を初めて聴いたのは、NHKのクラシック倶楽部で放送された

2011年にサントリーホールで行われた演奏でした。

特に心を奪われたのは、ドビュッシーの版画。

俗世から離れたような天衣無縫な演奏で

目の前に情景が広がっていくようでした。

プレスラーの演奏を一度、実際に聴いてみたいと思いました。

 

それから、2014年に庄司紗矢香さんとのデュオリサイタルで来日されたときに

初めてサントリーホールで聴くことができ、

2人の美しい共演を微笑ましく見守りました。

その後、2015年のソロリサイタルとN響は、意気込んで両方とも

押さえたのですが、体調不良のため来日が中止になり。。

その後も来ないかなと、時々チェックしていたら

運良く2年ぶりに来日することを知り、今回に至ります。

 

前回は、全国数カ所での公演が予定されていましたが、

今回はサントリーホールの1日のみ。

体調を考慮してのことだろうなと思いました。

サントリーホールの入口には、老若男女が集まっていて

メナヘム・プレスラーの最後の来日となるかもしれない演奏を

聴きたいと思った人たちの集まりなんだなと思って見ていました。

当日券も発売していて、列ができていました。

中に入って席に向かう途中、「北海道から来ました」という男性の

声が聞こえてきて、「でもわかるな〜」と思いました。

 

開始時刻になって、プレスラーが舞台袖から姿を現しました。

介添えの人に支えられて、着席するにも手を借りていたようでした。

私の席からでは、細かいところはよくわからなかったのですが、

その姿にショックを受けた人もいたようです。

私が見た2014年のプレスラーから、随分衰えを見せていました。

前回中止になったことがあったので、無理を押して来日して下さった

のかなと思いました。

 

前半は、ヘンデルモーツァルトでした。

私は、曲についてあれこれ言えるほど詳しくはないので、

ただ自分の琴線に触れる響きを探して、音に集中して

耳を傾けるのみなのですが、

タッチが曖昧なところがあり、くぐもった音に

なっているところがあるのは何となく感じました。

しかし、聴衆は、プレスラーに熱い熱のこもった拍手を送り、

プレスラーも正面と舞台後ろの席にも心のこもったお辞儀を返しました。

後半は、ドビュッシーショパン。プレスラーの御箱です。

そして後半になってプレスラーの演奏が冴えたように感じました。

(私がこの辺りが好みなので、そういう風に感じたのかもしれません^^;)

演奏中は、あからさまに物音は立てる人はいませんが、咳だったり

紙を動かす音など、全く無音というわけではありません。

それが、亜麻色の髪の乙女のあたりから、私を含めて

一層しんとなり耳をすましているのがわかりました。

(何やらカバンの中を見て何かをしていた私の隣の女性も^^;)

人は、「これは素晴らしい」と思ったら、本能的に

それを1秒たりとも聴き逃すまいとするものなのだなと思いました。

その後も、変幻自在に紡ぎ出される音を楽しみました。

そして演奏が終わり、アンコールになりました。

 

1曲目は、ショパンノクターン 第20番

悲しみを秘めた曲なのにきらびやかで宝石がこぼれ落ちるよう

なんですよね。豊かな豊穣の実り。

長く生きてくると、別れも近づいてくるけれど

同時にこうべを垂れる稲穂のように豊かであって

きらきらと輝いている。

別れは悲しいことだけではないんですね。

 

2曲目は、ドビュッシーの月の光。

自分自身を消したところに

音が浮かび上がってくるような曲だと思います。

プレスラーは、最初の一音から最後の一音まで

そういう風できる演奏家

私はそういうプレスラーが好きなのです。

それは音楽への愛なのだと思います。 

禅ではないけれど、そういう境地に近いものがあるかも。

言葉では言い表せないような天上の世界が広がっていました。

 

アンコールは、両曲とも夢のようで、音がこぼれ落ちないように聴きました。

 

アンコール後、プレスラーは熱い拍手と賛辞

スタンディングオベーションで送られました。

そこには、聴衆の様々な思いが込められていました。

プレスラーもそれにお辞儀や投げキス^^などで気持ちを表しました。

お互いの想いを交換して、与え与えられるそんなリサイタルだったと思います。

 

私にとって、メナヘム・プレスラーは

夢のような美しい世界を味あわせてくれ、

また現実の世界も同時に豊かで美しいものであることを

示してくれる演奏家です。

無理はさせられませんが、またどこかでお会いできたら

夢のようです。

 

さすがNHKというのか、前回の庄司さんとのデュオ・リサイタルに続き、

今回もNHKの収録が入っていましたので、

いつかクラシック倶楽部で放送されると思います。

放送を楽しみに待ちたいと思います。

(18.1.8追記: 1月31日のクラシック倶楽部で放送されます^^
  http://www4.nhk.or.jp/c-club/x/2018-01-31/10/66038/1894412/
 1.7のクラシック音楽館の方は見逃してしまい残念です^^;
   http://www4.nhk.or.jp/ongakukan/91/   )

願わくば、2011年のものも併せて放送してもらえれば

永久保存版にしますのでよろしくお願いします^^